1. 背景とねらい
従来の原子力コミュニケーション手法は、原子力推進と安全確保を大前提とした、平時の原子力理解増進や社会受容向上を目的としていました。そのため、啓発的コミュニケーションや説得的手法が多用されていました。
福島原子力事故以降、この安全確保の前提条件が不確かなものとなり、国や専門家に対する信頼が大きく損なわれました。
現在までに、放射線による健康影響リスクを説明する副読本、ガイドブック、Q&A集などの資料は多数発行されており、説明会や講演会も数多く開催されていますが、これらの資料や説明会では、「リスク」の考え方がはっきり示されておらず、また、リスクの持つ「不確かさの影響」についての説明不足も見られ、人々の間で共通認識が形成されず、結果的には低線量の放射線に対する人々の懸念は払拭されていません。
つまり、この問題は、従来の説得的手法では対処できなかったということであり、新たなリスクコミュニケーション手法を模索し、構築することが必要となりました。
そこで、その第一プロセスとして、専門家が一方的に働きかけるのではなく、地域コミュニティの人々と共に考え、対話を重ね、作り上げるという手法により、「低線量の放射線健康影響に対するガイドブック」を制作しました。
2. 目的
福島原子力事故後の原子力危機管理の再構築に向けて、低線量影響に対する新たなリスクコミュニケーション手法の構築を目指します。そのため、地域コミュニティの特性を活かした地域参画型リスクコミュニケーション手法の実践モデルを提案し、
・低線量被ばくの科学的エビデンス(根拠)をいかに伝えるか
・科学のみでは検証できない不確実性をどのように取り扱うか
・心理的・社会的影響をいかに考慮するか
以上の事柄に重点を置いた新たな地域参画型リスクコミュニケーション手法における、多様な地域市民の効果的な参画とその実装手法※を社会実験により検証していきます。
※実装手法:社会に具体的に適用する方法